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A:昔、分からないことを分からないままにしておけなかった。分からないままにしておくことは、ダメなこと、気持ち悪いこと。解明しなきゃっていう強迫観念があった。
B:分からないことを、分かるようにならないといけないっていう強迫観念?
A:そう。例えば観光に行って、ある有名な神社を通り過ぎようとしたときに「この神社について今詳しく知っておかないと、後で恐ろしいことが起きる」みたいな囁きが聞こえるときがあって。時間が迫っていても観光リストに入っていなくても「ちょっとここ一瞬だけ見させて!」って行かずにはいられないことがあった。
B:それ、分からないこと全般に対してそう思ってるの?
A:最初はね。でも当然だけれど、分からないこと全部に対して思っていたら、今頃私は地球上の全ての謎を解明するスーパー研究者になっているわけで(笑)
B:そうだよね(笑)
A:世の中は分からないことだらけだって、それにいちいち苦しんでいたら生きていけないって途中で気づいて、そこからはうまく付き合っていこうってマインドにチェンジした。そのマインドにするにも一苦労だった気がするけれど……
B:それは一苦労しそう。性格に近いものを変えようとしているんだから。
A:その性格だと、余りに生きづらい人になってしまう。楽しみながら謎を解明していける人が研究者に向いていると思うけど、中には昔の私のように「分からないことを分からないままにしておけない」みたいな強迫観念で動く人もいると思っていて。とてつもなく苦しいだろうなって……
B:確かに、病んでしまったり自殺したりする人もいるよね……
A:分からないことを明らかにすることで、世の中の役に立つことは多くあるよ。でも「この世は分からないことだらけ」「分からないことが分からないままでも、大丈夫」って感覚も、私にとっては生きていく上で本当に大事だった。それは「できないことをできるようにすること」も同じだと思う。
B:前に『20代のうちにやるべきこと』って本の話したの覚えてる?
A:覚えているよ。『20代のうちにしておきたいこと』『人生は20代で決まる』とか書いてある本だよね。
B:そう。ああいう本、Aは読まないって言ってなかった?
A:言ってた。
B:私、必ず読むんだよね。それこそ「知らないと気が済まない」って感じなのだけれど、Aはそれは知とうとしないんだ?
A:本当は私も「読まないと!知らないと!」って強迫観念が湧いてるよ。でも「知ること」にキリがないことも知っちゃったから、「知りたいこと」を選ぶようになった。
B:あえて読む選択をしていない、ってことなんだ。
A:そう。それからさっきの神社の話は、実際に神社の前を通ってしまったっていうのもある。
B:なるほど。「対象が目の前にあったら、余計に知らずにはいられない」ってことか。
A:そうそう。完全な運依存だけれどね。
B:『20歳のうちにやっておかないといけないこと』本が、今目の前に出てきたら見る?
A:今目の前に出てきたら見るよ。「運に依存してるな」って思いながらね(笑)本屋に行ったら本が大量にあるから選ぶけれど、美容院や歯医者に本が置いてあったら一通り見る。きっと、自分の目の前に見えているものを知ることで一時的に満足感を得たいのだと思う。結局は「自分が見ているほんの一部の世界を知る」に過ぎないんだけれどね。
B:昔はネットがなくて、広い世界を知るのも難しかったから、余計「自分の目の前に見えているものを知ろう」って思考になりがちだったのかもしれないね。
A:そうそう。「無知の知」よ。「知った」と思っても、世界は広すぎて、結局私はなーんにも知らない。それが仕方ないって思えるのに、時間かかっちゃったなぁ。
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